2025年6月17日(火)21:30発表(日本時間) 米国 小売売上高## 【1】結果:総合、コアは市場予想を下振れ、コントロール・グループは底堅さを維持小売売上高(前月比) 結果:-0.9% 予想:-0.6% 前回:-0.1%(速報値+0.1%から下方修正)自動車・同部品除くコア小売売上高(前月比) 結果:-0.3% 予想:+0.2% 前回:+0.0%(速報値+0.1%から下方修正)コントロール・グループ(自動車、ガソリン、外食、建設資材除く小売売上高・前月比) 結果:+0.4% 予想:+0.3% 前回-0.1%(速報値-0.2%から上方修正)【図表1】米国小売売上高の推移出所:米商務省、Bloombergよりマネックス証券作成米国では、個人消費がGDPの約7割を占めることから、その動向を確認できる小売売上高に注目が集まります。そして、今回5月の小売売上高は前月比-0.9%と市場予想(-0.6%)を下回り、2ヶ月連続で売上減少となりました。また、自動車の販売はセールなどの影響で月ごとの変動が大きいため、自動車を除いた小売売上高にも注目が集まります。結果は前月比-0.3%とこちらも市場予想(-0.2%)を下回りました。ただし、全体の小売売上高よりは穏やかな減少であることから、5月は自動車の減少が大きいことがうかがえます(後段で詳述)。一方、GDPの算出に間接的に用いられるコントロール・グループ(季節変動の大きい自動車、ガソリン、外食、建設資材を除いたコア小売売上高)は、前月比+0.4%と市場予想(+0.3%)を上回り、前月(-0.1%)から回復を示しました。なお、今回の結果を受けて、アトランタ連銀のGDPNow(短期予測モデル)では、2025年第2四半期の実質GDP成長率(季節調整済み年率)の推定値が+3.8%から+3.5%へと引き下げられました。 ※この修正は、同日発表された鉱工業生産指数および輸入価格指数の結果も反映されています。## 【2】内容・注目点: 駆け込み需要の反動で自動車が大きく減少図表2の通り、5月の品目別の小売売上高は13項目中7項目が減少となりました。【図表2】品目別小売売上高(前月比)出所:米商務省、Bloombergよりマネックス証券作成今回、特に売上減少が目立ったのは、自動車・同部品(-3.5%)や建設資材(-2.7%)、ガソリンスタンド(-2.0%)でした。なかでも、自動車・同部品は、2024年6月以来の大きな減少となりました。自動車は高額な取引であるため、関税の動きに対して消費者が敏感に反応しており、3月には関税導入前の駆け込み需要が見られた一方で、今回5月はその反動減が大きく表れました。そして、自動車・同部品の売上は全体の2割程度を占めるため、全体の動きも関税導入の4月を挟んで同様の推移をたどっています(図表3参照)。【図表3】自動車・同部品と小売全体の関税前後の前月比推移出所:米商務省、Bloombergよりマネックス証券作成 また、小売売上高項目の中で唯一のサービス支出項目である外食も、前月比-0.9%と不調でした。外食の売上高の減少は、対面サービスを提供する労働者の必要性が減少することを間接的に意味しており、一部業界での労働需要の低下(労働市場の冷え込み)が懸念されます。一方、雑貨(+2.9%)やスポーツ用品等趣味(+1.3%)、家具(+1.2%)など、比較的裁量的支出に分類される項目は堅調に推移しました。そのほか、無店舗小売も前月比+0.9%と好調で、全体を下支えしています。好調な無店舗小売に支えられ、米国の基調的な消費動向を表すコントロール・グループ(自動車、ガソリン、外食、建設資材を除いた小売売上高)は底堅さを維持しています(図表4参照)。しかし、トレンドとしては下向きに転じつつあり、今後この推移が下割れしていくかどうかが、米国経済の行方を左右するカギとなりそうです。【図表4】コントロール・グループの推移と寄与度分解出所:米商務省、Bloombergよりマネックス証券作成## 【3】所感:一時的な反動減か本格的な消費減速の兆しか、金融政策の難所5月の米小売売上高は、自動車・同部品を中心に大きく減少しました。前述の通り、これは関税導入前の駆け込み需要の反動減による一時的な要因が大きいと考えられます。また、基調的な消費動向を示す「コントロール・グループ」は底堅さを保っており、現時点では米国の個人消費全体が大きく崩れたとは言えません。単月のデータに過度に反応するのではなく、次回以降の動向を注視し、トレンドとしての変化かどうかを見極める必要があるでしょう。とはいえ、今回のように個人消費に陰りが見え始めたことは、米国経済を支えてきた個人消費の今後の持続性に対する懸念を呼び起こします。特に注意すべきは、関税の影響がまだ物価に本格的に現れていない段階で消費に減速の兆しが見えた点です。実際、CPI(消費者物価指数)などの物価指標は足元で鈍化傾向にあり、インフレは一定の落ち着きを見せていますが、関税によるコスト上昇はタイムラグを伴って今後反映されると見られています。全米小売業協会(NRF)のジャック・クラインヘンツ氏も「関税に伴うインフレは2025年後半に顕在化する」と指摘しています。仮に今後、関税の影響が消費者物価に波及した場合、家計の実質購買力は低下し、消費の下押し圧力がさらに強まるリスクがあります。そして、値上げに対して消費者がついてこられない場合、企業は値上げをせずに企業努力で関税コストを吸収する必要が生じます。そうすると、収益悪化に対して企業は人員カットで対応すると想定され、雇用の悪化が懸念されます。雇用の悪化は、消費の悪化につながり、これが負のスパイラルになれば景気後退に陥る可能性があります。こうした中で、利下げのタイミングが非常に重要となりますが、関税の影響が顕在化するタイミングは読みづらく、不確実性の高さが金融政策の判断を難しくしています。それについては、6月18日のFOMC(米連邦公開市場委員会)後に予定されているパウエル議長の記者会見での発言に注目が集まります。フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐
【米国】米小売売上高、5月は-0.9%で市場予想を下振れ 2ヶ月連続で売上減少を記録 | 日本とアメリカの重要な経済指標を分かりやすく解説 | マネクリ マネックス証券の投資情報とお金に役立つメディア
2025年6月17日(火)21:30発表(日本時間)
米国 小売売上高
【1】結果:総合、コアは市場予想を下振れ、コントロール・グループは底堅さを維持
小売売上高(前月比)
結果:-0.9% 予想:-0.6%
前回:-0.1%(速報値+0.1%から下方修正)
自動車・同部品除くコア小売売上高(前月比)
結果:-0.3% 予想:+0.2%
前回:+0.0%(速報値+0.1%から下方修正)
コントロール・グループ(自動車、ガソリン、外食、建設資材除く小売売上高・前月比)
結果:+0.4% 予想:+0.3%
前回-0.1%(速報値-0.2%から上方修正)
【図表1】米国小売売上高の推移
出所:米商務省、Bloombergよりマネックス証券作成
米国では、個人消費がGDPの約7割を占めることから、その動向を確認できる小売売上高に注目が集まります。
そして、今回5月の小売売上高は前月比-0.9%と市場予想(-0.6%)を下回り、2ヶ月連続で売上減少となりました。
また、自動車の販売はセールなどの影響で月ごとの変動が大きいため、自動車を除いた小売売上高にも注目が集まります。結果は前月比-0.3%とこちらも市場予想(-0.2%)を下回りました。ただし、全体の小売売上高よりは穏やかな減少であることから、5月は自動車の減少が大きいことがうかがえます(後段で詳述)。
一方、GDPの算出に間接的に用いられるコントロール・グループ(季節変動の大きい自動車、ガソリン、外食、建設資材を除いたコア小売売上高)は、前月比+0.4%と市場予想(+0.3%)を上回り、前月(-0.1%)から回復を示しました。
なお、今回の結果を受けて、アトランタ連銀のGDPNow(短期予測モデル)では、2025年第2四半期の実質GDP成長率(季節調整済み年率)の推定値が+3.8%から+3.5%へと引き下げられました。
※この修正は、同日発表された鉱工業生産指数および輸入価格指数の結果も反映されています。
【2】内容・注目点: 駆け込み需要の反動で自動車が大きく減少
図表2の通り、5月の品目別の小売売上高は13項目中7項目が減少となりました。
【図表2】品目別小売売上高(前月比)
出所:米商務省、Bloombergよりマネックス証券作成
今回、特に売上減少が目立ったのは、自動車・同部品(-3.5%)や建設資材(-2.7%)、ガソリンスタンド(-2.0%)でした。
なかでも、自動車・同部品は、2024年6月以来の大きな減少となりました。自動車は高額な取引であるため、関税の動きに対して消費者が敏感に反応しており、3月には関税導入前の駆け込み需要が見られた一方で、今回5月はその反動減が大きく表れました。そして、自動車・同部品の売上は全体の2割程度を占めるため、全体の動きも関税導入の4月を挟んで同様の推移をたどっています(図表3参照)。
【図表3】自動車・同部品と小売全体の関税前後の前月比推移
出所:米商務省、Bloombergよりマネックス証券作成
また、小売売上高項目の中で唯一のサービス支出項目である外食も、前月比-0.9%と不調でした。外食の売上高の減少は、対面サービスを提供する労働者の必要性が減少することを間接的に意味しており、一部業界での労働需要の低下(労働市場の冷え込み)が懸念されます。
一方、雑貨(+2.9%)やスポーツ用品等趣味(+1.3%)、家具(+1.2%)など、比較的裁量的支出に分類される項目は堅調に推移しました。
そのほか、無店舗小売も前月比+0.9%と好調で、全体を下支えしています。好調な無店舗小売に支えられ、米国の基調的な消費動向を表すコントロール・グループ(自動車、ガソリン、外食、建設資材を除いた小売売上高)は底堅さを維持しています(図表4参照)。
しかし、トレンドとしては下向きに転じつつあり、今後この推移が下割れしていくかどうかが、米国経済の行方を左右するカギとなりそうです。
【図表4】コントロール・グループの推移と寄与度分解
出所:米商務省、Bloombergよりマネックス証券作成
【3】所感:一時的な反動減か本格的な消費減速の兆しか、金融政策の難所
5月の米小売売上高は、自動車・同部品を中心に大きく減少しました。前述の通り、これは関税導入前の駆け込み需要の反動減による一時的な要因が大きいと考えられます。また、基調的な消費動向を示す「コントロール・グループ」は底堅さを保っており、現時点では米国の個人消費全体が大きく崩れたとは言えません。単月のデータに過度に反応するのではなく、次回以降の動向を注視し、トレンドとしての変化かどうかを見極める必要があるでしょう。
とはいえ、今回のように個人消費に陰りが見え始めたことは、米国経済を支えてきた個人消費の今後の持続性に対する懸念を呼び起こします。特に注意すべきは、関税の影響がまだ物価に本格的に現れていない段階で消費に減速の兆しが見えた点です。
実際、CPI(消費者物価指数)などの物価指標は足元で鈍化傾向にあり、インフレは一定の落ち着きを見せていますが、関税によるコスト上昇はタイムラグを伴って今後反映されると見られています。全米小売業協会(NRF)のジャック・クラインヘンツ氏も「関税に伴うインフレは2025年後半に顕在化する」と指摘しています。
仮に今後、関税の影響が消費者物価に波及した場合、家計の実質購買力は低下し、消費の下押し圧力がさらに強まるリスクがあります。
そして、値上げに対して消費者がついてこられない場合、企業は値上げをせずに企業努力で関税コストを吸収する必要が生じます。そうすると、収益悪化に対して企業は人員カットで対応すると想定され、雇用の悪化が懸念されます。雇用の悪化は、消費の悪化につながり、これが負のスパイラルになれば景気後退に陥る可能性があります。
こうした中で、利下げのタイミングが非常に重要となりますが、関税の影響が顕在化するタイミングは読みづらく、不確実性の高さが金融政策の判断を難しくしています。それについては、6月18日のFOMC(米連邦公開市場委員会)後に予定されているパウエル議長の記者会見での発言に注目が集まります。
フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐