日経平均は案の定、上値の重い展開となってきました。株式市場の焦点もこれまでの関税動向から国内景気や中東情勢などへとシフトしてきた印象です。特に6月13日に引き起こされたイラン-イスラエルの軍事攻撃が拡大し、ロシアーウクライナの状況と重ね合うこととなれば、世界大戦までエスカレートしかねません。世界情勢は明らかにキナ臭さを増しているように見受けます。国内景気に関しても、不透明感は一層増してきたように思います。夏のボーナス支給額も、民間企業調べでは全体では前年比で2%弱の伸びとの結果が出ていますが、消費者物価指数はこのところ3%超の伸びを示しており、購買力そのものはむしろ低下している可能性があります。政府は給付金などで景気テコ入れを図りたいようですが、景気はこうしたデータ以上に人の気持ちが非常に重要です(だからこそ、気という漢字が使われているとも)。給付金で気分が前向きに変わるかどうかは慎重に見定めたいところです。株価が上放れるタイミングにはまだ時間が要るのではと予想します。## コメ不足が突きつけた日本の農業の脆弱性さて、今回は「農業」をテーマに取り上げてみましょう。先日来の「令和の米騒動」を機に、食料品の安定供給に対してにわかに危機感が高まってきています。前述の消費者物価指数の上昇が著しい状況に関しても、コメ価格上昇の影響が見てとれます。今後、農産物に対しての意識は「あって当たり前」から「ないと困る」という見方へと変化するのではないでしょうか。当然、農業そのものについても、就業人口や就業者年齢、収益性といった切り口に食糧安保といった観点が加わり、その持続可能性についてもより踏み込んだ議論がなされ始めるものと予想します。「なかなか儲かり難い」という認識が定着している農業ですが、ビジネスポテンシャルは高まってくるのかもしれません。よい機会ですので、改めて日本の農業と関連銘柄をまとめておきたいと思います。## 農産物の輸出額は1兆円近くまで拡大まずはこれまでの農業を振り返ってみましょう。実はこのテーマは10年ほど前に2度ほどこのコラムで採り上げたことがあります。当時はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)締結前後の時期であり、そこでダメージを受けかねない日本の農業に対し、「ピンチをチャンスに変える好機」になるというスタンスで紹介しました。実際、それまで3000億円に満たなかった日本からの農産物輸出額は2015年辺りから急速に拡大し、2024年には1兆円弱という水準まで成長を遂げています。円安の影響を加味しても、農業がしっかりとビジネスチャンスを捉えている状況が確認できるのです。主要輸出品はアルコール飲料や畜産品などですが、穀物や野菜・果実の増加も顕著です。この10年の間に、日本の品種改良努力が結実したぶどうや桃、いちごの輸出額は3~10倍にも伸びた他、規模は大きくないですがコメも輸出額は15倍に増加しています(ただし、それらを仮に国内出荷に振り向けても需給を緩和させるには全く足りない規模です)。かつて典型的な国内型産業だった農業は明らかに「輸出でメシが食える」産業への変貌の萌芽が見て取れるのです。## 「儲からない農業」からの脱却は可能か?そうした中で令和の米騒動が発生しました。このリスクは以前から指摘されており、このコラムでもちょうど1年前に「猛暑」の影響としてコメが不足し始めていることに触れています。そう考えれば、言わば起こるべくして起こった騒動と言えるのかもしれません。流通系統が複雑といったコメ特有の問題はあるにせよ、46年にわたった減反政策がもたらした縮小思考が、昨今の気候変動やインバウンド需要に対する機動的な動きをためらわせた遠因であることは否めないでしょう。これは前述した「輸出でメシが食える」産業への変貌の萌芽といった流れとは真逆のものとも言えます。詰まるところ、農業の変革はまだら模様の状況にあり、食糧安保の確保や「儲かる」農業への転換はまだ決定的な流れになっていないということなのです。換言すれば、それらを確実なものにするためには、これまでの発想を否が応でも不可逆的に転換させる大きなカタリストが必須ではないかと考えます。## 進まぬ導入、それでも不可避な農業のDXでは、そのカギは何でしょうか。ここでは解候補の一つとしてスマート農業に注目したいと思います。農水省によると、スマート農業とは「ロボット、AI、IoT等の情報通信技術を活用した農業技術」と定義され、これにより農作業の効率化、労働量の軽減、生産性の向上が期待されるとしています。実際、生産人口の減少、農業従事者の高年齢化、安定供給ニーズの増大、持続可能な生産者利益の獲得など複雑で深刻な問題が顕在化しつつある以上、そのような形での農業改革は避けて通れないシナリオと言えるでしょう。ただし、スマート農業も提唱されて以降、なかなか普及が進まないというのも現実です。何度か株式市場でも話題になりましたが、尻すぼみとなってしまいました。実際、スマート農業では一定規模以上の農地規模がなければその効果の発揮が難しいとされています。また、種々のデータを集めてもいかに活用していくかという分析・判断がなければ無用の長物です。しかし、農業改革は待ったなしであり、時計の針を進めなければなりません。高いハードルは引き続き残るものの、むしろ企業が乗り出してきやすい可能性につながるものと捉えたいところです。輸出の増加を現実に果たしているように、日本の農業を継続させ、かつ魅力ある産業とするためにも、こうした変化は決してできないことではないと期待しています。## 種苗、農機具、アグリテック、農業の未来を担う注目銘柄株式投資という観点からは、クボタ(6326)、井関農機(6310)といった大手農機メーカーに加え、セラク(6199)、ベルグアース(1383)、オプティム(3694)、イーサポートリンク(2493)、ジェノバ(5570)、ネポン(7985)、やまびこ(6250)、Terra Drone(278A)、OATアグリオ(4979)といったハードメーカー、アグリテック会社がリストアップできるでしょう。当然、サカタのタネ(1377)、カネコ種苗(1376)といった種苗メーカー、クミアイ化学工業(4996)や日産化学(4021)といった大手農薬企業もまたスマート化でビジネスチャンスが広がり、改めて注目されるタイミングが到来するのではと予想します。
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日経平均は案の定、上値の重い展開となってきました。株式市場の焦点もこれまでの関税動向から国内景気や中東情勢などへとシフトしてきた印象です。特に6月13日に引き起こされたイラン-イスラエルの軍事攻撃が拡大し、ロシアーウクライナの状況と重ね合うこととなれば、世界大戦までエスカレートしかねません。世界情勢は明らかにキナ臭さを増しているように見受けます。
国内景気に関しても、不透明感は一層増してきたように思います。夏のボーナス支給額も、民間企業調べでは全体では前年比で2%弱の伸びとの結果が出ていますが、消費者物価指数はこのところ3%超の伸びを示しており、購買力そのものはむしろ低下している可能性があります。政府は給付金などで景気テコ入れを図りたいようですが、景気はこうしたデータ以上に人の気持ちが非常に重要です(だからこそ、気という漢字が使われているとも)。給付金で気分が前向きに変わるかどうかは慎重に見定めたいところです。株価が上放れるタイミングにはまだ時間が要るのではと予想します。
コメ不足が突きつけた日本の農業の脆弱性
さて、今回は「農業」をテーマに取り上げてみましょう。先日来の「令和の米騒動」を機に、食料品の安定供給に対してにわかに危機感が高まってきています。前述の消費者物価指数の上昇が著しい状況に関しても、コメ価格上昇の影響が見てとれます。今後、農産物に対しての意識は「あって当たり前」から「ないと困る」という見方へと変化するのではないでしょうか。
当然、農業そのものについても、就業人口や就業者年齢、収益性といった切り口に食糧安保といった観点が加わり、その持続可能性についてもより踏み込んだ議論がなされ始めるものと予想します。「なかなか儲かり難い」という認識が定着している農業ですが、ビジネスポテンシャルは高まってくるのかもしれません。よい機会ですので、改めて日本の農業と関連銘柄をまとめておきたいと思います。
農産物の輸出額は1兆円近くまで拡大
まずはこれまでの農業を振り返ってみましょう。実はこのテーマは10年ほど前に2度ほどこのコラムで採り上げたことがあります。当時はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)締結前後の時期であり、そこでダメージを受けかねない日本の農業に対し、「ピンチをチャンスに変える好機」になるというスタンスで紹介しました。
実際、それまで3000億円に満たなかった日本からの農産物輸出額は2015年辺りから急速に拡大し、2024年には1兆円弱という水準まで成長を遂げています。円安の影響を加味しても、農業がしっかりとビジネスチャンスを捉えている状況が確認できるのです。主要輸出品はアルコール飲料や畜産品などですが、穀物や野菜・果実の増加も顕著です。この10年の間に、日本の品種改良努力が結実したぶどうや桃、いちごの輸出額は3~10倍にも伸びた他、規模は大きくないですがコメも輸出額は15倍に増加しています(ただし、それらを仮に国内出荷に振り向けても需給を緩和させるには全く足りない規模です)。
かつて典型的な国内型産業だった農業は明らかに「輸出でメシが食える」産業への変貌の萌芽が見て取れるのです。
「儲からない農業」からの脱却は可能か?
そうした中で令和の米騒動が発生しました。このリスクは以前から指摘されており、このコラムでもちょうど1年前に「猛暑」の影響としてコメが不足し始めていることに触れています。そう考えれば、言わば起こるべくして起こった騒動と言えるのかもしれません。
流通系統が複雑といったコメ特有の問題はあるにせよ、46年にわたった減反政策がもたらした縮小思考が、昨今の気候変動やインバウンド需要に対する機動的な動きをためらわせた遠因であることは否めないでしょう。これは前述した「輸出でメシが食える」産業への変貌の萌芽といった流れとは真逆のものとも言えます。
詰まるところ、農業の変革はまだら模様の状況にあり、食糧安保の確保や「儲かる」農業への転換はまだ決定的な流れになっていないということなのです。換言すれば、それらを確実なものにするためには、これまでの発想を否が応でも不可逆的に転換させる大きなカタリストが必須ではないかと考えます。
進まぬ導入、それでも不可避な農業のDX
では、そのカギは何でしょうか。ここでは解候補の一つとしてスマート農業に注目したいと思います。
農水省によると、スマート農業とは「ロボット、AI、IoT等の情報通信技術を活用した農業技術」と定義され、これにより農作業の効率化、労働量の軽減、生産性の向上が期待されるとしています。実際、生産人口の減少、農業従事者の高年齢化、安定供給ニーズの増大、持続可能な生産者利益の獲得など複雑で深刻な問題が顕在化しつつある以上、そのような形での農業改革は避けて通れないシナリオと言えるでしょう。
ただし、スマート農業も提唱されて以降、なかなか普及が進まないというのも現実です。何度か株式市場でも話題になりましたが、尻すぼみとなってしまいました。実際、スマート農業では一定規模以上の農地規模がなければその効果の発揮が難しいとされています。また、種々のデータを集めてもいかに活用していくかという分析・判断がなければ無用の長物です。
しかし、農業改革は待ったなしであり、時計の針を進めなければなりません。高いハードルは引き続き残るものの、むしろ企業が乗り出してきやすい可能性につながるものと捉えたいところです。輸出の増加を現実に果たしているように、日本の農業を継続させ、かつ魅力ある産業とするためにも、こうした変化は決してできないことではないと期待しています。
種苗、農機具、アグリテック、農業の未来を担う注目銘柄
株式投資という観点からは、クボタ(6326)、井関農機(6310)といった大手農機メーカーに加え、セラク(6199)、ベルグアース(1383)、オプティム(3694)、イーサポートリンク(2493)、ジェノバ(5570)、ネポン(7985)、やまびこ(6250)、Terra Drone(278A)、OATアグリオ(4979)といったハードメーカー、アグリテック会社がリストアップできるでしょう。
当然、サカタのタネ(1377)、カネコ種苗(1376)といった種苗メーカー、クミアイ化学工業(4996)や日産化学(4021)といった大手農薬企業もまたスマート化でビジネスチャンスが広がり、改めて注目されるタイミングが到来するのではと予想します。