## イランの報復開始により、米国株の回復基調は失速先週(6月9日週)の米国株式市場は、一見すると平穏そのものでした。しかし、その静けさは6月13日(金)のイスラエルによるイラン攻撃、そしてそれに続くイランの報復によって突如として破られました。イスラエルの攻撃によりイランの軍幹部や核科学者が殺害され、ウラン濃縮施設にも損害が生じたと報道されると、米国株は急落、一時は反発の兆しも見られたものの、イランの報復開始の一報が伝わると、市場の回復基調は失速したのです。S&P500はこの日、前日比1.13%安の5,976.97で取引を終え、終値は日中の安値水準に近づきました。しかし、地政学的緊張が一段と高まったにもかかわらず、株式市場の反応は限定的かつ冷静だったと言えます。実際、S&P500は週末の下落を含めても週間ではわずか0.39%安にとどまり、ナスダック100も0.6%下落と急落には至っていません。ナスダックや大型ハイテク株を含む主要指数は、結果として「小幅安」で週を終えたのです。この理由は、マーケットは、この軍事行動を事前にある程度織り込んでいたからと言えるでしょう。実際、トランプ米大統領が6月11日に「中東から一部米国人職員を退避させる方針」を示唆した時点で、先を読むマーケットは軍事的エスカレーションの可能性を察知していたからです。株式市場が本質的に動揺するのは、完全な「サプライズ」が生じた時です。そう言った意味で、今回のイスラエル・イラン間の衝突は、市場では「想定の範囲内」であったと解釈されているのでしょう。## 原油13%急騰、原油価格は一時80ドル台半ばへ今回のイスラエルのイランへの攻撃で週末にかけて最大の注目を集めたのが、原油価格の激しい上昇です。6月13日(金)だけでWTI原油は8%上昇し、週を通しては13%も跳ね上がり、一時80ドル台半ばをつけました。背景にあるのは、イスラエルとイランを巡る新たな緊張の再燃です。とりわけ市場が懸念したのは、ホルムズ海峡の封鎖や中東の石油インフラが攻撃されるという「最悪シナリオ」の現実味です。一部アナリストは、原油価格が一時的に130ドルに達する可能性もあると警告しました。しかし、S&P500エネルギーセクターの上昇は1.72%にとどまり、S&P500の下落も1%程度で済んだことから、市場は「現時点では米国経済や企業収益への直接的な悪影響は出ないのでは」と判断していることがうかがえます。## 市場が真に反応するのは「インフレ・企業収益・実質金利」の3点米国の株式市場が一定の冷静さを保っている背景には、「本当に米国市場を動かすのは、インフレ率の急上昇、企業収益の悪化、実質金利の急騰という3つの要因である」という投資家の共通認識があるからだと言えるでしょう。現時点では、米国のインフレ率は鈍化傾向にあり、FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げ観測も年内に2回あるかないかといった程度に織り込まれています。米国の企業業績についても、足元の経済指標は底堅さを示しており、大きな懸念には至っていません。つまり、地政学リスクや原油の急騰といったヘッドラインが市場を揺らしても、「ファンダメンタルズへの影響が乏しければ、売りは限定的にとどまる」という構造的な市場心理が働いているのです。## ビザの急落がダウ平均を直撃、背景にウォルマート[WMT]の仮想通貨構想先週NYダウ平均は1.32%下落と、他の指数のリターンを下回っています。その要因として注目されたのが、ビザ[V]の株価急落です。報道によれば、小売最大手ウォルマート[WMT]が独自のステーブルコイン(価格安定型暗号通貨)を発行する構想を進めており、これが既存の決済ネットワーク、とりわけビザの収益モデルを脅かすのではないかとの見方が浮上しました。ダウ銘柄であるビザは、ダウ構成銘柄の中でも比重が高く、同社の株価下落はそのまま指数にマイナス影響を与える結果となりました。こうした個別企業の構造変化に関するニュースは、市場全体よりも特定の銘柄やセクターに即座に反映される傾向が強まっています。## AI関連銘柄は明暗分かれる:エヌビディア[NVDA]が再び牽引、アップル[AAPL]は失望テクノロジーセクターでは、引き続きAIを巡る明暗が分かれました。週明けのロンドンテックウィークで、エヌビディア[NVDA]のCEOジェンスン・ファン氏が登壇し、AIインフラ需要の拡大やBlackwell GPUの今後の展開に言及したことが好感され、フィラデルフィア半導体指数は1.47%上昇。一方で、同じ週に開催されたアップル[AAPL]のWWDC(世界開発者会議)は市場の期待に応えるには不十分でした。生成AIに関する目新しい発表が乏しく、株価はイベント後に軟調となりました。アップルは今後iOSへのAI統合を進めるとしていますが、投資家は具体的な差別化戦略を求めており、物足りなさが残った格好です。アップルの株価は3.66%下落しました。## 今週(6月16日週)の焦点:中東リスクの拡大とFOMC、利下げ見通しに市場の視線### 中東情勢は、事態のさらなる拡大や複雑化につながることがリスク現時点で、イスラエルとイランの軍事衝突に対し、米国は直接的な当事者とはなっておらず、対応はあくまで限定的かつ防御的な範囲にとどまっています。具体的には、米国の支援はミサイル迎撃や情報提供が中心であり、イスラエルとともに攻撃的な軍事行動に踏み込む姿勢は見せていません。大切なポイントはこれがあくまでもイスラエルとイランとの戦争ということです。しかし、イスラエル国内に約70万人の米国市民が居住しているといわれています。仮に、イラン側の攻撃によって多くの米国人が被害を受ける可能性が高まるような事態に発展した場合、トランプ米大統領がイスラエル側の軍事行動に明確に加勢する可能性も否定できず、事態のさらなる拡大や複雑化につながることがリスクと考えられます。イランは、米国との間で予定されていた核協議を中止しました。一方で米国側は、対話の扉は常に開かれているとの立場を崩しておらず、イランとの建設的な話し合いに応じる用意があるとしています。### 6月のFOMC、焦点は政策金利よりも経済認識と政策スタンスの微妙な変化市場のもう一つの関心は6月17日~18日のFOMC(米連邦公開市場委員会)です。今回の会合で政策金利自体に変更は見込まれていませんが、同時に公表されるSEP(経済見通し要約)が、今後の政策スタンスを読み解く上での最大の材料となります。特に注視されるのは、FRBメンバーによる政策金利見通し(いわゆるドットチャート)の変化です。ここで2025年後半の利下げ予測が、どの程度「ハト派寄り」に傾くかが、今後の市場の方向性を占う上で極めて重要なシグナルとなります。あわせて、インフレ率や失業率に関する予測値の修正も注目すべき要素です。これらのマクロ経済見通しが、物価上昇圧力への警戒を反映した「タカ派」的な内容となるのか、それとも景気下支えを優先した「ハト派」寄りに転じるのかにより、マーケットの資金の向かう先は大きく異なってくる可能性があります。仮にハト派的な金利見通し、つまり早期利下げの可能性が強く示唆されれば、金利感応度の高いハイテク株といったグロース株への資金流入が再加速する展開が予想されます。一方で、インフレ再燃リスクが改めて浮上し、FRBの慎重姿勢が強調された場合には、市場金利の上昇を背景に、相対的に安定性のあるディフェンシブ銘柄やバリュー株へのローテーションが起こるシナリオも視野に入ります。したがって、今回のFOMCでのフォーカスは、政策金利の据え置き自体よりも、パウエル議長の会見を含めた経済認識と政策スタンスの微妙な変化であり、それがマーケットのこれからの動向において決定的な意味を持つことになるでしょう。
【米国株】イスラエルがイランを攻撃で原油急騰──それでも動じなかったS&P500 | 岡元兵八郎の米国株マスターへの道 | マネクリ マネックス証券の投資情報とお金に役立つメディア
イランの報復開始により、米国株の回復基調は失速
先週(6月9日週)の米国株式市場は、一見すると平穏そのものでした。しかし、その静けさは6月13日(金)のイスラエルによるイラン攻撃、そしてそれに続くイランの報復によって突如として破られました。
イスラエルの攻撃によりイランの軍幹部や核科学者が殺害され、ウラン濃縮施設にも損害が生じたと報道されると、米国株は急落、一時は反発の兆しも見られたものの、イランの報復開始の一報が伝わると、市場の回復基調は失速したのです。
S&P500はこの日、前日比1.13%安の5,976.97で取引を終え、終値は日中の安値水準に近づきました。しかし、地政学的緊張が一段と高まったにもかかわらず、株式市場の反応は限定的かつ冷静だったと言えます。
実際、S&P500は週末の下落を含めても週間ではわずか0.39%安にとどまり、ナスダック100も0.6%下落と急落には至っていません。ナスダックや大型ハイテク株を含む主要指数は、結果として「小幅安」で週を終えたのです。
この理由は、マーケットは、この軍事行動を事前にある程度織り込んでいたからと言えるでしょう。実際、トランプ米大統領が6月11日に「中東から一部米国人職員を退避させる方針」を示唆した時点で、先を読むマーケットは軍事的エスカレーションの可能性を察知していたからです。
株式市場が本質的に動揺するのは、完全な「サプライズ」が生じた時です。そう言った意味で、今回のイスラエル・イラン間の衝突は、市場では「想定の範囲内」であったと解釈されているのでしょう。
原油13%急騰、原油価格は一時80ドル台半ばへ
今回のイスラエルのイランへの攻撃で週末にかけて最大の注目を集めたのが、原油価格の激しい上昇です。6月13日(金)だけでWTI原油は8%上昇し、週を通しては13%も跳ね上がり、一時80ドル台半ばをつけました。背景にあるのは、イスラエルとイランを巡る新たな緊張の再燃です。
とりわけ市場が懸念したのは、ホルムズ海峡の封鎖や中東の石油インフラが攻撃されるという「最悪シナリオ」の現実味です。一部アナリストは、原油価格が一時的に130ドルに達する可能性もあると警告しました。しかし、S&P500エネルギーセクターの上昇は1.72%にとどまり、S&P500の下落も1%程度で済んだことから、市場は「現時点では米国経済や企業収益への直接的な悪影響は出ないのでは」と判断していることがうかがえます。
市場が真に反応するのは「インフレ・企業収益・実質金利」の3点
米国の株式市場が一定の冷静さを保っている背景には、「本当に米国市場を動かすのは、インフレ率の急上昇、企業収益の悪化、実質金利の急騰という3つの要因である」という投資家の共通認識があるからだと言えるでしょう。
現時点では、米国のインフレ率は鈍化傾向にあり、FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げ観測も年内に2回あるかないかといった程度に織り込まれています。米国の企業業績についても、足元の経済指標は底堅さを示しており、大きな懸念には至っていません。
つまり、地政学リスクや原油の急騰といったヘッドラインが市場を揺らしても、「ファンダメンタルズへの影響が乏しければ、売りは限定的にとどまる」という構造的な市場心理が働いているのです。
ビザの急落がダウ平均を直撃、背景にウォルマート[WMT]の仮想通貨構想
先週NYダウ平均は1.32%下落と、他の指数のリターンを下回っています。その要因として注目されたのが、ビザ[V]の株価急落です。報道によれば、小売最大手ウォルマート[WMT]が独自のステーブルコイン(価格安定型暗号通貨)を発行する構想を進めており、これが既存の決済ネットワーク、とりわけビザの収益モデルを脅かすのではないかとの見方が浮上しました。
ダウ銘柄であるビザは、ダウ構成銘柄の中でも比重が高く、同社の株価下落はそのまま指数にマイナス影響を与える結果となりました。こうした個別企業の構造変化に関するニュースは、市場全体よりも特定の銘柄やセクターに即座に反映される傾向が強まっています。
AI関連銘柄は明暗分かれる:エヌビディア[NVDA]が再び牽引、アップル[AAPL]は失望
テクノロジーセクターでは、引き続きAIを巡る明暗が分かれました。週明けのロンドンテックウィークで、エヌビディア[NVDA]のCEOジェンスン・ファン氏が登壇し、AIインフラ需要の拡大やBlackwell GPUの今後の展開に言及したことが好感され、フィラデルフィア半導体指数は1.47%上昇。
一方で、同じ週に開催されたアップル[AAPL]のWWDC(世界開発者会議)は市場の期待に応えるには不十分でした。生成AIに関する目新しい発表が乏しく、株価はイベント後に軟調となりました。アップルは今後iOSへのAI統合を進めるとしていますが、投資家は具体的な差別化戦略を求めており、物足りなさが残った格好です。アップルの株価は3.66%下落しました。
今週(6月16日週)の焦点:中東リスクの拡大とFOMC、利下げ見通しに市場の視線
中東情勢は、事態のさらなる拡大や複雑化につながることがリスク
現時点で、イスラエルとイランの軍事衝突に対し、米国は直接的な当事者とはなっておらず、対応はあくまで限定的かつ防御的な範囲にとどまっています。具体的には、米国の支援はミサイル迎撃や情報提供が中心であり、イスラエルとともに攻撃的な軍事行動に踏み込む姿勢は見せていません。大切なポイントはこれがあくまでもイスラエルとイランとの戦争ということです。
しかし、イスラエル国内に約70万人の米国市民が居住しているといわれています。仮に、イラン側の攻撃によって多くの米国人が被害を受ける可能性が高まるような事態に発展した場合、トランプ米大統領がイスラエル側の軍事行動に明確に加勢する可能性も否定できず、事態のさらなる拡大や複雑化につながることがリスクと考えられます。
イランは、米国との間で予定されていた核協議を中止しました。一方で米国側は、対話の扉は常に開かれているとの立場を崩しておらず、イランとの建設的な話し合いに応じる用意があるとしています。
6月のFOMC、焦点は政策金利よりも経済認識と政策スタンスの微妙な変化
市場のもう一つの関心は6月17日~18日のFOMC(米連邦公開市場委員会)です。今回の会合で政策金利自体に変更は見込まれていませんが、同時に公表されるSEP(経済見通し要約)が、今後の政策スタンスを読み解く上での最大の材料となります。
特に注視されるのは、FRBメンバーによる政策金利見通し(いわゆるドットチャート)の変化です。ここで2025年後半の利下げ予測が、どの程度「ハト派寄り」に傾くかが、今後の市場の方向性を占う上で極めて重要なシグナルとなります。
あわせて、インフレ率や失業率に関する予測値の修正も注目すべき要素です。これらのマクロ経済見通しが、物価上昇圧力への警戒を反映した「タカ派」的な内容となるのか、それとも景気下支えを優先した「ハト派」寄りに転じるのかにより、マーケットの資金の向かう先は大きく異なってくる可能性があります。
仮にハト派的な金利見通し、つまり早期利下げの可能性が強く示唆されれば、金利感応度の高いハイテク株といったグロース株への資金流入が再加速する展開が予想されます。一方で、インフレ再燃リスクが改めて浮上し、FRBの慎重姿勢が強調された場合には、市場金利の上昇を背景に、相対的に安定性のあるディフェンシブ銘柄やバリュー株へのローテーションが起こるシナリオも視野に入ります。
したがって、今回のFOMCでのフォーカスは、政策金利の据え置き自体よりも、パウエル議長の会見を含めた経済認識と政策スタンスの微妙な変化であり、それがマーケットのこれからの動向において決定的な意味を持つことになるでしょう。