2025年6月12日(木)21:30発表(日本時間) 米国 生産者物価指数(PPI)## 【1】結果:総合、コアいずれも前月比ベースで市場予想を下振れ【図表1】米生産者物価指数PPI(最終需要)結果まとめ※市場予想はBloombergがまとめたエコノミスト予想の中央値出所:米労働省、Bloombergよりマネックス証券作成5月の米生産者物価指数(PPI)は、前年同月比で2.6%の上昇となり、市場予想と一致しました。前回の2.4%上昇からは伸びがやや加速しています。前月比では0.1%の上昇となり、前回結果(0.5%低下)を上回ったものの、市場予想(0.2%)は下回りました。 変動の大きい食品とエネルギーを除いたコアPPIは、前年同月比3.0%上昇となり、市場予想と前回結果(ともに3.1%上昇)を下回りました。前月比ベースでは0.1%上昇となり、前回結果(0.4%低下)を上回ったものの、市場予想(0.3%)を下回りました。## 【2】内容・注目点:流通マージンの回復はポジティブ材料### そもそもPPIとはPPIとは、米国の生産者物価指数のことを指し、原材料や製品を対象として生産段階での財・サービスの価格変動を測定しています。例えば、机などの家具で考えると、企業が机という商品を生産するために仕入れる木材や金属といった原材料の価格変動を測定するのがPPIであるのに対し、CPIは最終的に消費者が購入する際の机の価格変動を測定します。必ずしもそうとは限らないものの、一般的に、企業が仕入れる原材料の価格変動は、最終的に消費者が支払う価格に反映されることが多いため、PPIはCPIの先行指標として注目されています。そして、トランプ政権による関税政策の影響が注目される中、先行指標となるPPIの注目度は高まりつつあります。【図表2】CPIとPPIの推移出所:米労働省、Bloombergよりマネックス証券作成また、PPIの項目のうち、ポートフォリオ管理費や航空運賃、外来医療費などは、FRB(米連邦準備制度理事会)がインフレ指標として採用している個人消費支出(PCE)価格指数の算出に用いられるとされています。このため、PPIは月末に発表されるPCE価格指数や、今後の金融政策の動向を予測するうえでも注目が集まります。### 5月結果の内訳・詳細#### 今後のインフレ圧力の若干の高まりを示唆今回5月のPPIの結果は、総合指数が前月からやや反発となり、ヘッドラインの数値からは今後のインフレ圧力の若干の高まりが示唆される結果となりました。【図表3】米国生産者物価指数(前月比)の内訳出所:米労働省、Bloombergよりマネックス証券作成#### 食品は全体の押し上げ要因となる可能性/エネルギー価格は前月比で横ばい図表3の通り、前月比の内訳を見ると、財価格は4月の+0.1%から5月は+0.2%へと、伸びがやや加速しました。主な要因は、食品価格が前月の0.9%低下から一転し、0.1%の上昇に転じたことです。CPIでも食品インフレの根強さが確認されており、今後も食品は全体の押し上げ要因となる可能性があります。一方、エネルギー価格は前月比で横ばいとなり、前月の+0.1%から伸びが鈍化しました。この動きは、5月初旬のWTI原油先物価格の下落後、比較的落ち着いた水準で推移していた状況と一致しています(図表4参照)。ただし、原油先物価格は6月に入ってから水準を切り上げ、上昇基調にあります。このため、次回のPPIではエネルギー価格が総合指数の押し上げ要因となる可能性があります。【図表4】WTI原油先物価格の推移出所:Bloombergのデータを基にマネックス証券作成#### コア税価格、前月比+0.2%で伸びが鈍化食品とエネルギーを除いたコア財価格は、前月比+0.2%となり、前月の+0.3%から伸びが鈍化しました。関税の直接的な影響を受けやすいコア財価格ですが、現時点では目立った影響は確認されていないようです。コア財の中で、関税の影響とみられる動きとしては、企業の設備投資対象である産業用機械などの民間資本設備に上昇が見られるほか、消費者向け耐久財は2024年来から上昇基調が続いており、足元ではそのペースがやや加速しています。一方で、その他非耐久財などを含む全体としては、依然として大きな影響は確認されていません(図表5)。【図表5】民間資本設備、消費者向け耐久財・非耐久財の前年同月比の推移出所:米労働省、Bloombergよりマネックス証券作成#### サービス価格は前月から反転上昇、健全な調整の範囲一方、サービス価格は前月比+0.1%となり、前月の-0.4%から反転上昇しました。主な要因は、小売・卸売業のマージン手数料が前月の-0.5%から+0.4%へ回復したことです。この項目の上昇は、サービスインフレを再び押し上げる要因となるものの、直近ではむしろマージンの下がり過ぎによる流通業の利益率悪化が懸念されていたため、今回の回復は健全な調整と受け止められます。今後は、適度な水準での推移が望まれます。そして、FRBが金融政策の判断材料とする個人消費支出(PCE)価格指数に関連する項目は、総じて抑制的な結果となりました。## 【3】所感:現時点で関税が物価に与える影響は確認されず焦点は景気動向に移る5月のPPIは、前日のCPIに引き続き、落ち着いた結果となりました。関税の影響が注目されている中でも、物価の伸びは穏やかにとどまっており、現時点では物価に大きな影響は出ていないようです。今回の結果を受けて、利下げを行いやすい環境が整いつつあり、米国経済や株式市場にとってはポジティブな材料と言えるでしょう。そして、インフレが現状問題ないと判断される状況では、米国経済の焦点は景気動向に移ります。特に、航空需要の低下(図表6)を反映し、CPIとPPIのいずれでも航空運賃の下落が続いている点は気がかりです。航空需要の減少は人流の減少を意味し、旅先でのさまざまなサービス需要の縮小にもつながる可能性があるため、景気の重要な先行指標と位置づけられます。【図表6】TSA(米国運輸保安局)が保安検査場でカウントした乗客数の推移出所:TSA(米国運輸保安局)、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成今後、夏場にかけて航空需要の増加が見込まれますが、例年と比べてどの程度の強さとなるかに注目が集まります。この辺りは、6月17日に発表される小売売上高を通じて、足元の米国消費の状況を確認する必要があるでしょう。フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐
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2025年6月12日(木)21:30発表(日本時間)
米国 生産者物価指数(PPI)
【1】結果:総合、コアいずれも前月比ベースで市場予想を下振れ
【図表1】米生産者物価指数PPI(最終需要)結果まとめ
※市場予想はBloombergがまとめたエコノミスト予想の中央値
出所:米労働省、Bloombergよりマネックス証券作成
5月の米生産者物価指数(PPI)は、前年同月比で2.6%の上昇となり、市場予想と一致しました。前回の2.4%上昇からは伸びがやや加速しています。前月比では0.1%の上昇となり、前回結果(0.5%低下)を上回ったものの、市場予想(0.2%)は下回りました。
変動の大きい食品とエネルギーを除いたコアPPIは、前年同月比3.0%上昇となり、市場予想と前回結果(ともに3.1%上昇)を下回りました。前月比ベースでは0.1%上昇となり、前回結果(0.4%低下)を上回ったものの、市場予想(0.3%)を下回りました。
【2】内容・注目点:流通マージンの回復はポジティブ材料
そもそもPPIとは
PPIとは、米国の生産者物価指数のことを指し、原材料や製品を対象として生産段階での財・サービスの価格変動を測定しています。
例えば、机などの家具で考えると、企業が机という商品を生産するために仕入れる木材や金属といった原材料の価格変動を測定するのがPPIであるのに対し、CPIは最終的に消費者が購入する際の机の価格変動を測定します。
必ずしもそうとは限らないものの、一般的に、企業が仕入れる原材料の価格変動は、最終的に消費者が支払う価格に反映されることが多いため、PPIはCPIの先行指標として注目されています。そして、トランプ政権による関税政策の影響が注目される中、先行指標となるPPIの注目度は高まりつつあります。
【図表2】CPIとPPIの推移
出所:米労働省、Bloombergよりマネックス証券作成
また、PPIの項目のうち、ポートフォリオ管理費や航空運賃、外来医療費などは、FRB(米連邦準備制度理事会)がインフレ指標として採用している個人消費支出(PCE)価格指数の算出に用いられるとされています。このため、PPIは月末に発表されるPCE価格指数や、今後の金融政策の動向を予測するうえでも注目が集まります。
5月結果の内訳・詳細
今後のインフレ圧力の若干の高まりを示唆
今回5月のPPIの結果は、総合指数が前月からやや反発となり、ヘッドラインの数値からは今後のインフレ圧力の若干の高まりが示唆される結果となりました。
【図表3】米国生産者物価指数(前月比)の内訳
出所:米労働省、Bloombergよりマネックス証券作成
食品は全体の押し上げ要因となる可能性/エネルギー価格は前月比で横ばい
図表3の通り、前月比の内訳を見ると、財価格は4月の+0.1%から5月は+0.2%へと、伸びがやや加速しました。主な要因は、食品価格が前月の0.9%低下から一転し、0.1%の上昇に転じたことです。CPIでも食品インフレの根強さが確認されており、今後も食品は全体の押し上げ要因となる可能性があります。
一方、エネルギー価格は前月比で横ばいとなり、前月の+0.1%から伸びが鈍化しました。この動きは、5月初旬のWTI原油先物価格の下落後、比較的落ち着いた水準で推移していた状況と一致しています(図表4参照)。
ただし、原油先物価格は6月に入ってから水準を切り上げ、上昇基調にあります。このため、次回のPPIではエネルギー価格が総合指数の押し上げ要因となる可能性があります。
【図表4】WTI原油先物価格の推移
出所:Bloombergのデータを基にマネックス証券作成
コア税価格、前月比+0.2%で伸びが鈍化
食品とエネルギーを除いたコア財価格は、前月比+0.2%となり、前月の+0.3%から伸びが鈍化しました。関税の直接的な影響を受けやすいコア財価格ですが、現時点では目立った影響は確認されていないようです。
コア財の中で、関税の影響とみられる動きとしては、企業の設備投資対象である産業用機械などの民間資本設備に上昇が見られるほか、消費者向け耐久財は2024年来から上昇基調が続いており、足元ではそのペースがやや加速しています。一方で、その他非耐久財などを含む全体としては、依然として大きな影響は確認されていません(図表5)。
【図表5】民間資本設備、消費者向け耐久財・非耐久財の前年同月比の推移
出所:米労働省、Bloombergよりマネックス証券作成
サービス価格は前月から反転上昇、健全な調整の範囲
一方、サービス価格は前月比+0.1%となり、前月の-0.4%から反転上昇しました。主な要因は、小売・卸売業のマージン手数料が前月の-0.5%から+0.4%へ回復したことです。この項目の上昇は、サービスインフレを再び押し上げる要因となるものの、直近ではむしろマージンの下がり過ぎによる流通業の利益率悪化が懸念されていたため、今回の回復は健全な調整と受け止められます。今後は、適度な水準での推移が望まれます。
そして、FRBが金融政策の判断材料とする個人消費支出(PCE)価格指数に関連する項目は、総じて抑制的な結果となりました。
【3】所感:現時点で関税が物価に与える影響は確認されず焦点は景気動向に移る
5月のPPIは、前日のCPIに引き続き、落ち着いた結果となりました。関税の影響が注目されている中でも、物価の伸びは穏やかにとどまっており、現時点では物価に大きな影響は出ていないようです。
今回の結果を受けて、利下げを行いやすい環境が整いつつあり、米国経済や株式市場にとってはポジティブな材料と言えるでしょう。そして、インフレが現状問題ないと判断される状況では、米国経済の焦点は景気動向に移ります。
特に、航空需要の低下(図表6)を反映し、CPIとPPIのいずれでも航空運賃の下落が続いている点は気がかりです。航空需要の減少は人流の減少を意味し、旅先でのさまざまなサービス需要の縮小にもつながる可能性があるため、景気の重要な先行指標と位置づけられます。
【図表6】TSA(米国運輸保安局)が保安検査場でカウントした乗客数の推移
出所:TSA(米国運輸保安局)、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成
今後、夏場にかけて航空需要の増加が見込まれますが、例年と比べてどの程度の強さとなるかに注目が集まります。この辺りは、6月17日に発表される小売売上高を通じて、足元の米国消費の状況を確認する必要があるでしょう。
フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐